FAプロダクツが推進した地域産業デジタル化支援事業、自動車部品のロボットアーク溶接工程における3D動作シミュレーションを活用した検証支援において、実証企業であるオグラ金属の取締役 常務執行役員・小倉賢大氏、執行役員 技術部部長・須永利明氏、技術部 生産技術グループ グループリーダー・石岩克己氏にお話を伺いました。支援前後でのリアルな感想をいただくことができました。また、プロジェクトリーダー・岩佐によるプロジェクトの総括も合わせてご紹介いたします。
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オグラ金属株式会社
経営者・現場責任者が語る「デジタルシミュレーション検証前の課題」と「検証後に感じたメリット」とは?
Interview 01
事前シミュレーションが行える環境で、
若手技術者への技能継承を促進。
会社全体のスキルを底上げし、
新たな売り上げのベースをつくる。
オグラ金属株式会社
取締役 常務執行役員
小倉 賢大氏
検証前の経営・事業における課題感について
弊社は自動車や農機具関係の部品のプレス加工を得意とする会社です。以前は大量生産が多かったのですが、近年は多品種少量の納品を求められることが多く、種類が増えてきたことで専用設備のエリアがどんどん増えてしまっている状態にあります。1つ1つの生産量が少ない割に、専用設備が工場内の大部分を占めるようになり、利益や生産性にも悪影響を与えてしまっていました。とはいえ、設備を廃棄・撤去するということには、お客さまへの供給責任もあり、踏み切れないという悩みがありました。
検証支援プロジェクトへの参加理由
1つの設備で複数の部品を溶接作業できるような、溶接設備の汎用化が以前から必要だと考えていました。これまでは新規の引き合いや見積り依頼が入ると、通常のオーダー対応中の実機を止めることはできないため、休日出勤や残業をして溶接作業の検討・検証を行っていました。メンバーに苦労をかけて、コストもかかってしまうという課題を抱えていました。
本プロジェクトについて聞いた時、実機ではなく、事前にPC上でオペレーションができるようになるため、営業時間内かつ通常生産に支障をきたすことなく、汎用化にチャレンジできるのではないかという期待があり、参加を承認しました。
検証後の効果について
設備立ち上げのリードタイムが短縮でき、スムーズに立ち上げられるようになったと思います。結果的には専用設備のエリアが減り、工場内の利用可能な工場内の利用可能エリアが増えることで、今までエリアが足りなくて断っていた受注を受け入れられるようになるため、売上や付加価値の向上に繋げられるのではないかと期待しています。
今回の実証支援を受け、実機で実際にトライする前に検証ができるようになったことが非常に大きなことだと思います。今までは特定の熟練者たちが短時間で新規の引き合いや見積りに対応しており、なかなか若手への教育ができていない状況にありました。3D動作シミュレーションでは、事務所内のPCで事前検証が可能で、パソコンが得意な若手と知識豊富なベテランが一緒に机を並べて学び合うということもできるようになりますので、DXを通した技能伝承ができるのではないかと実感しています。
DXへの取り組みと今後の展望について
若手に技能を継承し、会社全体のスキルを底上げすることで新たな受注のベースをつくり、最終的には利益率のアップに繋げていきたいと考えています。テレビや新聞などでDXがいろいろと取り上げられる中、弊社として以前から取り組まなければいけないと問題意識を持っていました。ただ、具体的に現場にどんなメリットがあるのか、なかなかピンとこないものが多かったのは事実です。だからこそ、今回の実証支援を通して「こんなメリットがあるのか!」と実感できたことは大きかったですね。メリットが伝わることで、「本格的にやってみよう」「こういう使い方もあるよね」といった新たな意識が芽生え、使用用途も見えてきました。今回の支援を機にもっと積極的に3D動作シミュレーション検証を活用していきたいですね。
Interview 02
ティーチング時間を従来の5分の1に短縮。
メンバーの負担を減らし、
常態化していた休日出勤を
ほぼゼロに減らすことができました。
オグラ金属株式会社
執行役員 技術部部長
須永 利明氏
検証前の経営・事業における課題感について
生産技術グループは、工場内の設備全体の管理・メンテナンス、溶接ロボットの立ち上げ、治具化、安全柵の設置などの全てを受け持つ部署なのですが、残業や休日出勤が非常に多く、一番の課題と感じていました。
いろいろな要因がありますが、大きな要因の1つは多品種少量の受注が多くなったことです。セルの数が限られている中で、新たな引き合いや見積りがあった際には、どうしても実機の生産を一度止めて治具を載せ替えて、そこから作業をする必要がありました。当然、営業時間内の生産は止められませんから、残業や休日出勤をして、移行する治具を載せて、部品を全て用意して、イチからティーチングをするというやり方が常態化してしまっていました。
検証支援プロジェクトへの参加理由
やはりオフラインティーチングですね。今まではロボットを立ち上げ、治具を載せ、製品を用意し、そこから始めてティーチングをスタートできるという状態でした。そうなるとティーチングを始め、プログラミングを確認して、最終的に製造部門へ引き渡すまでのリードタイムが非常に長くなってしまいます。また、「やってみたけど、ダメだった」「干渉が発生してしまい、治具を直さないといけない」「セルや安全策の幅を見直さないといけない」など、手戻りも多くありました。
3D動作シミュレーション検証支援で扱う「Process Simulate」は、ティーチングから干渉の確認まで幅広くシミュレートできるソフトだと知り、参加を決めました。
検証後の効果について
こういったシミュレーションソフトを導入するのは、弊社として初めての試みでしたが、非常に精度が高いというのが第一印象でした。治具や安全柵の設計に応じて、どうしても微妙な調整というのは必要になりますが、PC上でシミュレーションしたものを実機に移しても、本当に数ミリ単位のレベルで同じ軌跡を辿るのには驚きました。
実機とは別のところでティーチングプログラムが作れて検証しておくことができ、さらに実機にプログラムを入れてからも数ミリ単位の補正だけで済みます。従来の5分の1程度までに、ティーチング時間を短縮でき、生産技術グループメンバーの負担も大きく軽減できたのではないかと思います。当たり前のように、休日出勤を毎週していたのが、今はゼロになりました。残業時間も圧倒的に短縮することができましたね。
DXへの取り組みと今後の展望について
数年前からDXの必要が叫ばれる中で、展示会などで機械の稼働・生産状況が全て把握できるというパッケージ化されたソフトを多く見てきましたが、どうも腑に落ちませんでした。弊社としては、全て一辺倒に変えるのではなく、自分達にできることから始めていこうと、パッケージ化されたものではなく、自社に合うようにカスタマイズできるソフトを導入していこうという考えを持っていました。その点において、「Process Simulate」は非常に弊社に見合ったものであると感じています。
今、弊社には60台を超える溶接ロボットがありますが、中にはほとんど稼働していないものもあります。そういったところを1つに統合していこうとなった時に、今までは1つ1つ治具を載せて、干渉確認して、プログラムを補正して、ティーチングしてという流れを1点1点検証しながらの立ち上げとなっていました。これからは少量生産だから統合したいという場合にも、PC上で全ての流れを事前検証できるため、ちょっとした隙間時間にシミュレートして、実機の動作を補正すれば、すぐに生産をスタートできる、そんなスタイルになっていくのかと期待しています。
Interview 03
実機検証から3Dシミュレートへの移行で、
リードタイムを大幅削減に成功。
1回のティーチングで量産開始ができる、
そんな体制を構築していきたい。
オグラ金属株式会社
技術部 生産技術グループ グループリーダー
石岩 克己氏
検証前の経営・事業における課題感について
現在は、1つのセルに治具を複数載せて、入れ替えでグルグルと回転させるようなイメージで生産ラインが動いています。仮に新たな小ロットの受注があった際には、空いているロボットに治具を載せて、出費を極力抑えようという努力をしています。ただ、新しい治具ができ、いざティーチングをするとなった時にロボットが空いていなかったり、治具が合わずに手戻りが発生してしまったりと、リードタイムが大幅に伸びてしまうことが多く発生しているというのが今の困り事としてあります。
検証支援プロジェクトへの参加理由
以前からシミュレーションソフトの導入は検討していましたが、性能の割に価格が高いというイメージがありました。現在は、性能は上がり、価格も落ち着いているという話を聞き、もしそうであるのならば、このタイミングでデジタル化を進めていこうという思いがありました。また、ちょうど良きタイミングで地域産業デジタル化支援事業のお話を聞けたこともきっかけになりました。
検証後の効果について
今までは実機の稼働を止めることができずに、休日出勤で対応していたティーチングを、PC上でシミュレーションできるため、かなりの時間短縮や休日出勤の減少に繋がったと思います。精度に関しても、実機で確認しても大きなズレはなく、実際に数をこなしていくことで、更なる向上とスピードアップが見込めるのではないかと感じています。
見積りに関しては、今までは熟練者の経験と勘を頼りに行っていましたが、「Process Simulate」を活用することで、実際のサイクルタイムも測れますので、より最適な見積りが確実かつスピーディーにでき、非常に有効であると感じています。
DXへの取り組みと今後の展望について
現在は溶接のティーチングに特化していますが、今後トラブル等々が出てくる中で、そのトラブルをロボット単体でキャッチして、PCに戻してデータで管理するといったことにもトライしていきたいと思います。
今は現場にお願いしているのですが、その作業を無くし、現場の残業や休日出勤の軽減にも繋げていきたいです。1回のティーチングで量産開始ができる、そんな体制を作っていくことができると良いですね。
実証支援プロジェクト総括
多品種少量の受注を多く抱える
中堅・中小企業にこそ、
3D動作シミュレータによる
ティーチングの効果は
絶大なものとなるはずです。
FAプロダクツ Smart Factory事業部
Research&Development部 シミュレーショングループ プロフェッショナル
岩佐 達樹
検証前の経営・事業における課題感について
今回のオグラ金属さんの実証プロジェクトでは、アーク溶接のロボットをロボットシミュレータに適用した際に、実務上、技術的にきちんと成立するのかという基本的な検証を行いました。具体的には、すでに生産で使われている溶接用のロボットプログラムを、シミュレータの中に作った3D CADの環境に全て取り込み、実際と同じようにコンピューターの中でロボットのプログラムが動くのかを検証するのが1点。2点目として、シミュレータの中で作ったロボットのプログラムが実機できちんと問題なく同じように動くのかどうかを検証支援させていただきました。
検証結果について
検証の結果としては、いくつかの課題はあるものの、「Process Simulate」をこれまで活用いただいてきた世界中のお客様の結果とほぼ同程度のシミュレーションと実機のロボットの稼働の一致性、やりとりの確認ができました。また、シミュレータを使ったティーチングの効果に関してもしっかりと期待できるということがわかりました。アーク溶接のロボットプログラムの場合、ティーチング点数がかなり多く、1つ1つのロボットプロラムも、動作が3分近くになる非常に長いものになります。懸念はしていましたが、実機のロボットプログラムを変換し、シミュレータに持ってくるだけで、何の手を加えることなく、全て同じ動きが自動で再現できたことには、私自身も安心しましたね。
3D動作シミュレーション検証・デジタルファクトリー化のこれから
オグラ金属さんのように、多品種少量の受注が増えている企業さんは非常に多いと思います。ティーチングや設備の変更もそれだけたくさん行わなければなりません。さらに従来と同じようには時間も人手もかけられないという点では、大手企業よりも中堅・中小企業にこそ、シミュレータを用いて、ティーチングを効率化する効果は大きいのではないかと感じました。また、製造業の見積もり精度の向上という言葉と同じ意味で、設備やり直しロスのゼロ化=手戻りが発生したことで見積もり以上のコストがかかってしまうという状況がなくなるという点でも、会社経営に良い影響を与えてくれるのではないかと思います。
「Process Simulate」はロボットのティーチングだけでなく、PLCの制御や工場の作業者の動きなど、工場内の全ての環境を3Dで表現する、いわゆるデジタルツインを実現できるシステムになっています。今後は、ロボットシミュレーション、ロボットのティーチングに限定することなく、活用領域をどんどん広げていただき、この足利の工場を全て3Dで表現できるようにして、真のデジタルツインを実現していっていただけると嬉しいです。
今まで「Process Simulate」は投資額が大きいということもあり、製造業でもかなり大企業ですとか、ロボットをたくさん使っているような限定した領域で効果を上げてきました。今回オグラ金属さんの検証支援に携わらせていただく中で感じたのは、多品種でいろいろな製品を生産し、一生懸命にロボットを活用して自動化に取り組まれているところで適用すれば、当然イニシャルコストはかかりますが、効果はより大きなものが得られるのではないかと思いました。
大企業以上に中堅・中小企業にこそ、デジタルツインを実現して、DXを加速し、もっと大きな効果を波及させていくべきだと感じています。そして、その支援をFAプロダクツとしても推進していきたいと思っています。